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要旨:樋口一葉は、僅か二十四年の生涯に、二十二編の小説、日記、随筆、短歌、 そして『通俗書簡文』を残し、数多くの作品は恋愛を中心とする。恋愛は大ま かなストーリーとして彼女の作品を貫いて、また彼女は日記に「切なる恋の心 は尊ときこと神の如し」などと書いてあったから、橋本威氏が一葉は「恋情至 上観」を持っていると解釈する。筆者は一葉が桃水の呪縛から脱出するにした がって、恋愛観上の考えも成熟して、そういう変化はまた彼女の後期の作品に 表れていると思っている。本論は以下のように三つの段階に分けて樋口一葉の 恋愛観を分析しようと思う。 半井桃水と出会ってから絶交する(明治 25 年 6 月)までが第一の段階であ って、其の時期、桃水に対する恋の心は朦朧としていて、まだ完全に目覚めて いない。その複雑な気持ちは自然に彼女の前期の作品に傾けられていた。その 複雑な恋愛の気持ちについて、橋本威氏は「恋情至上主義」の論断を提出した。 第二の段階は絶交の後から、28 年 4 月に『軒もる月』が完成されるまで、や はり一葉がようやく桃水の呪縛から解放されたという時が第二の段階である。 其の時期には、一葉の桃水に対する抑えた恋はだんだん自覚され、そして「厭 う恋」に転換していく。第三段階は、『にごりえ』以下の時期である。一葉は ようやく桃水の呪縛から解放され、新しい世界、つまり自己重視の道へ向いて いく。其の段階で作中の女性はだんだん個性が現れ、著しい現実性・写実性を 深めてきて、構想の上にも大きな変遷がある。初めて人妻の「不倫」という問 題を正面から取り上げたことになる『裏紫』はその段階の代表作である。 要するに、一葉が官能的な愛欲を蔑視し、プラトン式な精神恋愛に熱望し、 形而上学の精神世界を求める。こんな考え方は彼女の作品の中に現れている。 自分の恋愛体験を素材として、「私小説」の形で、若い女の子が憧れの人と結 婚できないということに対する感傷的な気持ちをはっきり見せている。樋口一 葉は、自分なりの手法で作品を書いている。平等的で社会の下層民の生活を描 いている。だからこそ、作家の作品は永遠に魅力に富み、今までも人々に愛読 されている。樋口一葉が恋愛に対する体験と追求はどんなものであろうか、後 世にどんな影響を与えるか、そういうことは拙論の着目点である。終わりでは、結論にまとめ、今後の研究課題を提出してみた。
キーワード:樋口一葉、恋愛観、変化、主体性 |