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要旨:周作人はその一生において日本文化、文学ないし日本の思想家、文人たちと深い関わりを持っている。かつて竹内好は「教養としての日本文化を最初に有った人である」と指摘した。現代中国では周作人ほど日本文化に対して理解の独自性を持つ者、または造詣の深い者は、恐らく過去にもなく現在にもないだろう。周作人における日本文学の受容は、明治の新文学、つまり西洋文学の創造的模倣から、日本文学の独創性への発見に至る迂回した捉え方があった。彼は日本の文学を見る場合、文化的見地から、日本文学の独創性を発見しようとしたのである。周作人が追い求めようとしたのは、即ち中国文学にはない、あるいは今は消えていった一種の精神的境地ではないかと思われる。 周作人と日本及び日本文学との関係については、従来から注目されてきた。松枝茂夫は「白樺派と中国」で周作人が日本の白樺派の代表者の武者小路実篤に共感を抱いた経緯を述べた。周作人と武者小路――中日人道主義文学者の出会いは美談となっている。また、周作人が与謝野晶子の「貞操論」を訳し、与謝野晶子に強く感銘を受け、貞操観念について論じ、中国における女性解放運動の先声となった。このほか、周作人の特徴として、民俗学への関心、とくに柳田国男への傾倒が挙げられるだろう。 本研究は先行研究を踏まえ、周作人が感銘を受け、強く引かれた日本作家の夏目漱石・永井荷風・谷崎潤一郎との関わりを分析する。その背景、周囲、横のつながりを時間軸に沿って徹底的縦横無尽に理解する。特に、ディテールに最大限の注意を払う。ポイントになる概念や言葉を日本語と中国語の両方で考え、共通性と違いを頭の中で転がす。 日本は周作人の作家形成に決定的な意味をもつばかりか、彼の全生涯に及んでいる。周作人の散文の創作態度を考察してみると、まるで漱石の「茶を品し花に灌ぐのも余裕である。冗談を言うのも余裕である。絵画雕刻に閑を遣るのも余裕である。釣も謡も芝居も避暑も湯治も余裕である」の実践ではないかと思われる。漱石の「低徊趣味」または「余裕のある文学」論は、周作人の文学に影響を与えただけでなく、その人生観にも与えていたと思われる。一方、周作人の三十年代における思想・文学の基本的傾向に照らしてみて、また同時期の散文・随筆のなかで、いかに荷風・谷崎文学に触れ、共感しているかを細心に検証すると、我々は「思想上は常に一種の超俗性があり、それが私の最も好きなところ」だ、という彼の言葉に含まれている本質的な意味とその内実を見極めることができよう。周作人の荷風・潤一郎に対する関心と共感の理由を、三人に共通する反俗的な独立主義、伝統回帰の意識、東洋人の宿命観、という三点に帰着した。周作人における日本文学者の受容の考察は、中国に限らず日本の近代思想のポジティブな面やネガティブな面をありのままに考察するためになると筆者が信じている。
キーワード:独創性 異国情緒 余裕派 耽美主義 反俗 |